県営住宅建替え proj ~ 「まちのリニューアル」をめざした桜井県営住宅建替え基本計画 ~

公営住宅の意義について

公営住宅については、近年、市場政策を重視した展開が中心とされ、「真に住宅に困窮する者への限定的な供給」へと地方公共団体の施策は舵取りされています。戦後に大量供給された公営住宅の多くは老朽化して物理的かつ社会的な寿命を迎えており、単純な建替事業では地方公共団体の財政状況はたいへん厳しいものとなります。

一方で、昨今の格差や孤立等の社会問題の中で、今後とも住宅に困窮する弱者の増加が危惧されています。

このような問題意識の下、その解決手法の具体的なモデルが求められていると考えます。

 

地域再生につなげる県営住宅建替事業

この業務は、事業主体である奈良県が桜井市に所有する桜井県営住宅の建替事業を、地域再生(「まちのリニュアル」と呼ばれている)に繋げて実施したものです。

公営住宅の建替事業等では通常は「建築物」にしか着目されません。そのため、いかに合理的かつ経済的に「建築物」を建替えできるかということだけにとらわれてしまいます。

この建替基本計画では、公営住宅が立地する「土地」を資源として活用し、それを地域に還元しつつ公営住宅建替えまでを行う、より公共性の高い施策効果をめざしています。

奈良県が桜井市と締結した「桜井市近鉄大福駅周辺地区のまちづくりに関する基本協定(平成27年7月)」をふまえ、以下の三つを基本方針とした、拠点整備及び環境づくりを検討しました。

1.住宅施設以外の施設導入を図る「まちとしての機能複合化」
2.高齢者から子どもたちまでが安全に安心して暮らせる「多世代交流の場づくり」
3.地域住民等による地域支援・地域施設の管理等を目標とした「地域自治の実現」

 

地域に開かれた住宅団地実現のための街区計画

この検討で最も重要視した点は、基本方針を実現するための基盤づくりとして、どのように「土地」を活用するかという点です。

桜井県営住宅は、耐火造4階建て48戸と簡易耐火造平屋建て及び二階建て計232戸が面的に広がる団地であり、この団地の閉塞感を解消して周辺地域へと開放された計画が必要でした。

このため周辺地域に倣った街区の規模や形状、かつ、将来的に柔軟かつ容易に土地利用を可能とし、子育てや高齢者のための施設整備や民間事業のための「余剰地の創出」を可能とする『街区計画』をめざしました。

『街区計画』にあたっては、周辺住民も利用しやすい開かれた道路・公園等の公共空間形成をめざし、道路に沿った建物配置である『沿道型建築物』を想定しながら検討する等、土木と建築の両計画を並行して行っていることが大きな特徴となっています。

 

■建替え前の県営住宅

 

■街区の再編と建物配置の検討

 

基本・実施設計のための「都市デザイン方針」のとりまとめ

本業務では、次のステージである基本・実施設計へのガイドライン的なとりまとめを行っています。ここでは、基盤施設(道路及び公園緑地等)や段階整備計画等とあわせて、「都市デザインの方針」を具体的に示しています。

以下、「都市デザインの方針」の抜粋です。

 

(1)周辺との景観の調和(建物高さの制限)

既成市街地との都市デザインの連続性を確保するため、県営住宅等における建物高さについて、周辺景観と調和し、かつ周辺に対して圧迫感を与えない「3階建て以下」を原則とする。

 

(2)快適な歩行空間の演出(建物と街路が融合した歩行空間の形成)

誰もが楽しく安全に歩ける「歩行空間づくり」 のため、街路に沿って建物を配置する「沿道型配置」を 原則として、「建物と街路が融合した快適な歩行空間づくり」をめざす。

(3)沿道建築物のデザイン
 (建物ボリュームとファサードデザイン等)

「建物と街路が融合した快適な歩行空間づくり」においては「沿道建築物のデザイン」として、「建物ボリュームの分割 」、「複数のデザイン単位の設定」 、「街路を演出する建物ファサードのデザイン 」、「街路と接地型住宅の一体的なデザイン」 への配慮が必要である。

(4)賑わい空間づくり(交流空間の設定)

居住者だけでなく周辺地域住民等も楽しく集い交流できるような空間を設けて「団地」から脱却し「まち」へと変わるため、本拠点整備にあたっては、余剰地を確保し、住宅以外の用途の施設整備を行い、本計画地を縦断する街路を「賑わい空間」と位置付け、壁面後退部を「コミュニティ空間」として、賑わいの場となるよう活かす。周辺にはできる限り地域集会所や地域交通拠点等の「賑わい拠点」を集約させる。

 

 

 

 

 

(5)「まち」の入り口の明示
   (ゲート空間の演出)

本拠点整備を周辺となじませた「まち」とするため、 「まち」への入り口を複数設定し、周辺からアクセスしやすいようにして、「まち」を印象づける設えを行う。

 

 

(6)歴史的景観の尊重(景観視点場のデザイン配慮)

近鉄大福駅周辺地区の周辺には、景観資源としての三輪山・耳成山等がそびえており、これらへの眺望確保により歴史的景観を尊重することは地域のアイデンティティ(独自性)を高め地域への愛着に繋がる。

このため建物内からだけでなく、地上レベルからも三輪山・耳成山等が見通せる場所(視点場)を大切にし、その場所の特徴を活かしたランドスケープデザイン及び建物デザインを行う。

 

 

第1期竣工(R03.03)

※基本・実施設計は他社